2022年5月19日木曜日

階段

 以前白い家のオブジェを作っていました。手のひらに乗るほどの小さな家です。必ず階段をつけていました。階段ってなんだかワクワクします。自称、階段マニアです。家の中にある階段もいいのですが、町の階段も胸が躍ります。東京には階段の町があります。お茶の水とか、谷中。子供の頃暮らしていた四谷にも階段がありました。家から坂町商店街に向かって歩くとすぐに階段がありました。階段を降りて坂を下って行くと、とつぜんに小さな商店街がありました。まるで異世界へと迷い込んでしまったような感じでした。坂道に沿って豆腐屋さん、パン屋さん、床屋さん、お菓子屋さん、乾物屋さん、八百屋さん、肉屋さん、魚屋さん、文房具屋さん、お蕎麦屋さんと並んでいました。どの店とも顔見知りでした。お使いに行ってきてと親から頼まれて、揚げたてのコロッケを買った後、走って家まで帰ってきたものでした。帰りはあの階段を二段跳びでハアハアしながら急いで、まだ熱いよと言いながら渡すと、五円ほどのお駄賃をもらったものでした。中学生の頃、四谷を離れて、いつの間にか商店街も消えてしまいました。そんなノスタルジーが白い家や街のオブジェシリーズにつながったのかもしれません。だから、階段はなくてはならないものなのだと思います。